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FDI・投資

ASEANの行政区画改革:多様なモデルと投資への影響

ASEAN地域では、行政区画の再編は行政改革を進める主要…

Ardian Susanto 執筆者
· 1 分で読めます

ASEAN地域では、行政区画の再編は行政改革を進める主要な政策手段の一つであり、公共サービスや行政運営の効率性にも大きな影響を与えます。

ASEAN加盟国は経済統合や域内協力を進めている一方、国内の地方行政制度については、それぞれ異なるアプローチを採用しています。

フィリピンでは、既存の州を分割して新たな行政単位を設置することで地方分権と地域代表性を高める「分割・拡大型」の改革が長く行われてきました。インドネシアも地方分権改革以降、行政区域の分割を積極的に進めてきましたが、その後は新自治地域の設置をより慎重に審査する方向へ政策を転換しています。

これに対し、ベトナムは近年、行政単位の統合を通じて行政組織を簡素化し、政策決定や行政調整の効率性を高める「統合型」のモデルを採用しています。

こうした行政区画の拡大・分割や統合は、本来それぞれの国の国内統治に関する政策です。しかし、外国投資家にとっても無関係ではありません。行政機関の管轄変更、許認可手続、地方政府の行政能力、地域ごとの規制運用などに影響し、場合によっては投資プロジェクトの実務にも大きな変化をもたらします。

本稿では、フィリピン、インドネシア、ベトナムの3カ国を比較し、異なる行政区画改革モデルが投資環境にどのような影響を与えるのかを整理します。

investment implications

フィリピン:行政区域の分割と地方分権

フィリピンでは、長年にわたり、既存の大規模な行政区域を分割し、新たな州や地方自治体を設置する方法が採られてきました。

こうした行政単位の新設は恣意的に行われるものではありません。1987年憲法および1991年地方自治法に基づき、新たな州の設置には財政的な存立可能性、人口または面積などの要件が設けられています。また、州の新設には議会による法律の制定に加え、影響を受ける地域で実施される住民投票において過半数の賛成を得る必要があります。

制度上の考え方は明確です。行政単位を小規模化することで、行政を住民に近づけ、公共サービスへのアクセスを改善し、地方分権と地域開発を促進することが期待されています。

しかし、実際の成果は地域によって異なります。法定要件を満たして新たな州が設置されたとしても、長期的に十分な行政能力や財政基盤を維持できるとは限りません。

Nueva Camarines構想が示した財政面の課題

Nueva Camarinesは、その問題を示す一例です。

Camarines Sur州を分割し、新たにNueva Camarines州を設置する法案は2011年に下院を通過し、その後上院でも審議されました。しかし、最終的に法律として成立することはなく、Nueva Camarines州が実際に設置されたわけではありません。

同構想をめぐる議論では、新州が独自の財政基盤を確保し、長期的に自立した行政運営を行えるかという点も重要な論点となりました。

地方行政単位の新設によって住民に近い行政を実現できたとしても、中央政府からの財政移転への依存度が高ければ、実質的な財政自治が十分に確保されない可能性があります。

Dinagat Islands:法的な不確実性の事例

Dinagat Islands州の設置は、行政区画改革に伴う別のリスクを示しています。

同州は共和国法第9355号に基づき設置されましたが、その適法性をめぐって最高裁判所で争われました。最高裁は2010年に一度、同州の設置を違憲と判断しましたが、その後判断を変更し、2011年の決定では共和国法第9355号を有効かつ合憲と認定しました。

最終的には州としての法的地位が維持されたものの、この経緯は、行政区域の変更が一時的に管轄権や行政制度の不確実性をもたらす可能性を示しています。

財政面ではNTAへの依存度にも注意

新たな地方自治体の持続可能性を考える上では、財政構造も重要です。

かつてフィリピンでは、中央政府から地方自治体への主要な財政移転は内国税配分金(IRA)と呼ばれていました。

しかし、Mandanas-Garcia判決を受け、2022年度以降は対象となる国税の範囲が拡大され、現在は地方交付税(NTA)という名称が使用されています。

NTAは地方自治体の財政基盤を支える重要な収入源ですが、独自財源の少ない自治体では中央からの移転への依存度が高くなる場合があります。

そのため、地方分権を制度上拡大しても、財政面で十分な自立性を確保できるかどうかは別の問題です。

行政能力の地域差は投資実務にも影響する

新たな州や地方自治体を設置する場合、行政機関、職員、予算制度、許認可体制などを整備する必要があります。

一部の地域では比較的円滑に移行できますが、行政経験や人材が不足する地域では、許認可や政策実施に遅れが生じる可能性があります。

外国企業にとって、これは単なる行政上の問題ではありません。

フィリピンの国レベルの法制度が同一であっても、許認可手続の迅速性、行政機関とのコミュニケーション、地方政府の対応力などは、州や自治体によって異なることがあります。

したがって、フィリピンへの投資を検討する際には、国レベルの法規制だけでなく、実際に事業を行う州・市・自治体の行政能力についても確認することが重要です。

フィリピンのモデルは地方分権を重視する一方、地域間で行政能力や財政力に差が生じる可能性を伴うモデルといえます。

インドネシアも、かつてはフィリピンと同様に、行政区域の分割によって新たな地方行政単位を設置する政策を積極的に進めてきました。

特に1999年の地方行政法の導入後、地方分権が急速に進み、1999年から2014年にかけて多数の新たな州、県(kabupaten)、市(kota)などの自治地域が設置されました。

インドネシア憲法第22D条は、地方代表議会(DPD)が地方自治、中央・地方関係、地域の設置・分割・統合などに関する法案を国民議会(DPR)へ提出し、その審議に参加できることを定めています。したがって、行政区域の再編は中央政府だけで決定される制度ではなく、国の立法プロセスの中で地方代表も一定の役割を担っています。

急速な行政区域拡大とその再評価

地方自治体の増加によって行政サービスが住民に近づくことが期待された一方、新設された自治地域の成果には大きなばらつきがありました。

インドネシア内務省などが過去に実施した評価では、地方分権改革後に新設された自治地域の相当数について、行政能力や財政基盤の面で十分な成果を上げていないとの指摘がなされました。

特に2011~2012年前後の評価では、評価対象となった新自治地域の約80%についてパフォーマンスが低いとの結果も報告されています。これは現在のすべての新自治地域の状況を示す数字ではありませんが、その後の制度厳格化を促した重要な背景の一つです。

こうした経験を踏まえ、政府は2014年に2014年法律第23号を制定し、新自治地域の設置プロセスをより慎重な制度へと変更しました。

3年間の「準備地域」制度

2014年法律第23号の特徴の一つが、Daerah Persiapan、すなわち「準備地域」の制度です。

新たな自治地域の候補は、直ちに恒久的な自治地域となるのではなく、原則として3年間、準備地域として行政能力や財政面などの評価を受けます。法律上、準備期間は3年間とされています。

評価の結果、自治地域として運営する能力が認められれば正式な新自治地域(DOB)へ移行する一方、十分な能力がないと判断された場合には、元の地域に戻される制度となっています。

この仕組みは、「行政区域をまず分割し、その後に行政能力を整備する」という従来のモデルから、「行政能力を検証した上で自治を認める」というモデルへの転換を示しています。

北カリマンタンは比較的成功した事例

すべての行政区域分割が低い成果に終わったわけではありません。

2012年に東カリマンタン州から分離して設置された北カリマンタン州は、比較的良好な事例として挙げられることがあります。

近年の研究では、分離後に北カリマンタン州の経済開発指標や地域間格差の指標が改善したことが示されています。

ただし、こうした改善を行政区域の分割のみの効果とみなすことはできません。もともとの天然資源、産業構造、投資ポテンシャル、インフラ開発など、複数の要因が地域経済の成長に影響しています。

したがって、行政区域の分割が経済発展を自動的にもたらすわけではなく、地域が持つ経済基盤と行政能力が結果を大きく左右します。

財政依存、行政能力、政治的動機が課題に

1999年から2014年にかけての行政区域拡大が再評価された背景には、複数の問題があります。

代表的なものとして、新自治地域の中央政府財源への依存、独自財源の不足、行政人材・制度の未成熟、地域エリートによる政治的な利害を背景とした分割などが指摘されてきました。

新しい自治体が設立されれば、新たな行政庁舎、人員、予算、公共サービス体制などが必要になります。そのため、十分な財政基盤のない行政区域を増やすことは、中央政府にとっても追加的な財政負担となります。

モラトリアムは2026年5月時点でも継続

こうした問題を背景に、インドネシア政府は新自治地域の設置に対するモラトリアムを継続しています。

行政区域の分割そのものが法律で禁止されているわけではありませんが、通常の新自治地域(DOB)の新設は政策上抑制されています。

2026年5月時点でも、地方政府や地方議会からモラトリアム解除を求める動きが続いていることから、同政策は引き続き新自治地域設置の重要な制約となっています。例えば、2026年5月にはBanten州政府も、Cilangkahanの新自治地域構想について「モラトリアムの解除を待っている」と説明しています。

一方、例外的なケースとして、2022年にはPapua地域で新しい州が設置されました。Papuaについては、広大な行政区域、公共サービスへのアクセス、地域開発などを理由として、通常のモラトリアムとは異なる扱いが取られました。

この例は、インドネシアが行政区域の拡大を全面的に否定しているのではなく、必要性と地域特性を踏まえて選択的に実施する方向へ移行していることを示しています。

投資家にとってのメリットとリスク

行政区域の分割は、投資家にとってプラスとマイナスの両面を持ちます。

プラス面では、地方政府が事業拠点に近づくことで、行政サービスへのアクセスが改善する可能性があります。新自治地域の設置に伴ってインフラ整備や地域開発計画が進められれば、新たなビジネス機会が生まれることもあります。

一方、注意すべきなのが「規制の断片化」です。

地方政府ごとに手続や規制運用が異なれば、複数地域で事業を行う企業にとってコンプライアンス管理が複雑になります。

また、新設された自治地域では、担当職員の経験や制度運用の蓄積が十分でないケースもあります。これにより、ライセンスや行政判断に時間がかかる可能性があります。

さらに、中央政府からの財政移転への依存度が高い自治体では、地方インフラや開発プロジェクトの実施スピードが中央政府の財政状況に左右される可能性があります。

したがって、インドネシアにおける行政区域の分割が投資環境にとって「良い」か「悪い」かを一律に判断することはできません。

最も重要なのは、新たに設置される地域が十分な経済基盤、財政能力、行政人材および制度運用能力を備えているかどうかです。

ベトナム:行政単位を統合するモデル

フィリピンとインドネシアが行政区域の分割・拡大を経験してきたのに対し、ベトナムは近年、反対方向の大規模な改革を実施しました。

2025年の行政区画再編により、ベトナムは省・中央直轄市レベルの行政単位を63から34へ再編しました。34の省級行政単位は28省と6中央直轄市で構成されています。

さらに、2025年7月1日からは省級と社・坊等の基礎自治体からなる地方政府の2層制が本格的に運用され、従来の県級行政レベルを置かない新たな地方行政体制へ移行しました。

この改革の方向性は、行政単位を増やして地域代表性を強化するフィリピン型とは大きく異なります。

ベトナムは、行政単位や組織階層を統合することで、行政コストの削減、政策調整の効率化、意思決定の迅速化を図るモデルを採用しています。

投資家の観点では、行政窓口や管轄機関の集約によって、長期的には手続の統一や行政調整の効率化につながる可能性があります。

一方、大規模な行政再編の移行期には、担当当局の変更、行政所在地の変更、既存許認可の管轄移管、企業登録情報や行政データの更新など、実務上の調整が必要となる場合があります。

そのため、制度改革による効率化のメリットだけでなく、移行期間中の運用状況についても確認することが重要です。

投資家から見た3カ国の比較

フィリピン、インドネシア、ベトナムの事例から分かるのは、ASEANの行政区画改革には共通した一つのモデルが存在しないということです。

ASEAN各国への進出を検討する企業にとっては、国レベルの投資法制だけでなく、実際に投資する地域の行政構造とその運用能力まで確認することが、制度変更リスクを管理する上で重要になります。

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