ベトナムの医薬品産業は、大きな転換期を迎えています。品質管理、医薬品の回収、コンプライアンスに関する規制は、企業の実務に直接影響する重要な課題となっています。
通達30/2025/TT-BYTでは、医薬品・医薬品原料の品質基準の適用、検査、不適合医薬品の回収・処理に関する規定が更新されました。
外国投資家やグローバル製薬企業にとって、こうした変化は、コンプライアンス対応に伴う負担を増やす可能性がある一方、検査サービス、研究開発(R&D)における連携、高品質な医薬品製造など、新たな事業機会にもつながります。
Viettonkinで外国投資を支援してきた経験から見ると、重要なのは法令の条文だけではなく、それが実務上どのように運用されるかを理解することです。
そのため、規制の実務運用を事前に把握し、必要な対応を準備することが、変化するベトナム医薬品市場で長期的に事業を展開する上で重要となります。
主なポイント
- 品質管理・回収制度への対応: 通達30/2025/TT-BYTにより、医薬品・医薬品原料の品質基準、検査、不適合医薬品の回収・処理に関する規定が更新されました。
- コンプライアンスへの対応が重要: 外国投資家やグローバル製薬企業には、新たな規制環境を正確に理解し、事業運営に反映することが求められます。
- 新たな事業機会: コンプライアンス対応に伴うコストが増加する可能性がある一方、検査サービス、R&Dパートナーシップ、高品質な医薬品製造などの分野では成長機会が期待されます。
- 現地パートナーとの連携: 規制当局への対応や市場参入を円滑に進める上で、現地市場と規制実務を理解するパートナーとの連携が重要です。
- コンプライアンスを事業戦略に組み込む: 規制対応を単なる負担ではなく、持続的な成長を支える事業戦略の一部として捉える必要があります。
I. 通達30/2025/TT-BYTがもたらす新たな事業環境

ベトナムでは、医薬品産業を国際的な品質水準に近づけ、公衆衛生の向上と産業競争力の強化を図る取り組みが進められています。通達30/2025/TT-BYTは、医薬品・医薬品原料の品質基準の適用、検査、不適合医薬品の回収・処理に関する規則を更新するものです。
多くの企業による規制対応を支援してきた経験からも、こうした制度変更は企業にリスクと事業機会の双方をもたらすと考えられます。対応は、単に書類を更新すれば済むものではありません。
Tilleke & Gibbins(2025年)の分析でも、通達30/2025/TT-BYTによって品質基準・検査に関する規定や医薬品回収手続が見直されたことが指摘されています。特に自主回収については、一定の場合に企業が当局の事前承認を待たずに回収を開始できる仕組みとなっており、問題が発生した際の迅速な対応がより重要になります。こうした制度変更は、製薬企業の品質管理やサプライチェーン管理にも影響を与えます。
外国投資家にとっては、法令の内容を正確に把握することが不可欠です。LuatVietnamなどが提供する英訳も参考資料として活用できますが、条文を確認するだけでは十分とは限りません。現地のサプライチェーンに関わる企業との取引を含め、規制が実務上どのように運用されているかを把握することも重要です。
II. ベトナム医薬品産業:課題と機会が共存する市場

ベトナムの医薬品市場は、東南アジアでも成長性の高い市場の一つです。
所得水準の上昇と質の高い医療に対する需要の拡大が市場成長を支える一方、国内の製造能力については、引き続き高度化が求められています。高品質なジェネリック医薬品、バイオ医薬品、その他の医薬品に対する需要は拡大しています。
一方、原薬を含む医薬品原料の多くを輸入に依存していることは、サプライチェーン上の課題となっています。特に中小規模の製薬企業にとっては、規制対応の強化が負担となる可能性があります。
GMP基準に対応するための設備投資などには相応のコストが必要となるためです。こうした環境では、問題が発生してから対応するのではなく、事前にコンプライアンス体制を整えることが重要となります。
弊社が支援した案件の中にも、複雑な規制上の問題によって許認可への影響が懸念されたケースがありました。関係当局との緊急対応を含む調整を行った結果、投資を維持するとともに、処理期間を約30%短縮できた事例があります。こうした経験は、その後の案件における規制対応にも活用されています。
III. コンプライアンスを競争力につなげる新たな事業機会

規制への対応事項が増える一方、十分な準備を行う企業にとっては、新たな成長・投資機会も生まれています。
1. 信頼の構築と輸出機会
国際的な品質基準への対応は、単なるコンプライアンス対応にとどまらず、市場における差別化要因にもなります。弊社が支援してきた企業においても、高い品質基準への対応は、医療従事者からの信頼構築や輸出機会の拡大につながっています。品質管理を適切に行うことは、ベトナム医薬品市場で競争力を高める上でも重要です。
2. 検査サービス・R&Dパートナーシップの拡大
品質管理への要求が高まることで、GMP・GLPに関連する検査サービスを提供する企業にも新たな機会が生まれます。また、研究開発能力を補完するため、ベトナムの製薬企業では外部企業とのパートナーシップに対する需要も高まっています。こうした動きは、新規分子化合物や革新的な医薬品の臨床試験を含むR&D分野への投資機会にもつながります。ベトナムは人口規模も大きく、企業が研究活動の地域的な分散を検討する中、臨床試験の実施先としても成長余地があります。
3. 新たな成長分野と変化するグローバル市場
医薬品ビジネスには複数の成長分野があり、その多くは近年の世界的な公衆衛生危機によって大きな影響を受けました。新型コロナヴィルス感染症は、世界の製薬業界における研究開発を急速に加速させ、医療支出や事業戦略にも変化をもたらしました。ワクチン開発競争は科学的イノベーションの重要性を示し、そこで得られた経験は他の感染症分野にも生かされています。
また、パンデミック時に発生したサプライチェーンの混乱により、製薬企業は調達・生産戦略の見直しを迫られました。その結果、現地生産の重要性が改めて認識され、ベトナム国内での医薬品製造への投資機会にもつながっています。こうした経験を通じて、製薬企業にとってサプライチェーンの強靭性は、より重要な経営課題となりました。
ジェネリック医薬品市場についても、今後の成長機会があります。Merck & Co.やEli Lillyを含む大手製薬企業では、主力製品の特許満了への対応が中長期的な経営課題となっています。医薬品の特許や市場独占期間が終了すると、対象製品の売上が減少する可能性があるため、企業には他の製品による成長や新薬開発を通じて影響を補うことが求められます。
Merck & Co.においても、医薬品事業の一部分野で売上が減少する一方、他の治療領域やAnimal Health事業が収益基盤を支えています。こうした特許満了への対応は、大手製薬企業にとって継続的な経営課題です。そのため、各社は主要な治療領域で新規分子化合物を含む研究開発への投資を続けています。
IV. ベトナム医薬品市場で事業を展開するための戦略

変化する規制・市場環境に対応するためには、コンプライアンスとパートナーシップを事業戦略の中心に据えることが重要です。
1. 監査対応を前提としたコンプライアンス体制
事業開始時から、監査に対応できる体制を整えておくことが重要です。当社が支援した案件では、24時間前の通知を受けて監査対応が必要となり、許認可への影響が懸念されたケースもありました。
必要書類を体系的に整理し、関係当局との対応を進めた結果、監査を問題なく完了することができました。この経験をもとに、現在では事前に監査リスクを確認し、必要な対応を準備するためのプロセスをクライアント支援に活用しています。
2. 円滑な市場参入を支える現地パートナーシップ
外国企業にとって、ベトナムの規制環境に単独で対応することは、時間・コストの両面で負担となる可能性があります。現地メーカーや、規制実務を理解するアドバイザリー会社との連携は、市場参入を円滑に進める上で重要です。法令で定められた要件を把握するだけでなく、それを実際の事業プロセスへ落とし込むことが必要となります。
V. 成長機会を生かすために必要な準備

ベトナムの医薬品産業は成長を続けています。国際的な品質基準への対応や政府による産業支援は、中長期的な市場成長を支える重要な要素となっています。
一方、グローバル製薬市場では、治療領域ごとの成長率の違いや、主力製品の特許満了などに継続して対応する必要があります。2024年第4四半期のMerck & Co.の業績でも、オンコロジーや循環器領域などが成長する一方、一部の製品・領域では売上が減少しました。ただし、世界全体の売上は前年同期を上回っています。
このように、大手製薬企業であっても、製品ポートフォリオや治療領域によって業績動向は異なります。長期的な成長を維持するためには、新規分子化合物を含む新薬開発を継続するとともに、複数の治療領域や製品によって事業ポートフォリオを構築することが重要となります。特許満了は、規模の大きい製薬企業にとっても重要な事業リスクです。世界の製薬業界では長年にわたりこうしたサイクルが繰り返されており、各社には将来の特許満了を見据えた継続的な研究開発と事業戦略が求められています。
VI. 結論
ベトナムの医薬品産業が規制環境の変化を迎える中、Viettonkin Consultingは、外国企業がコンプライアンス対応を競争力へとつなげるための支援を提供しています。
外国直接投資に関する長年のアドバイザリー経験と、法務、税務、コンプライアンス、監査、アドバイザリーを横断するチームを通じて、当社は多国籍企業によるベトナムの規制環境への対応と、検査、研究開発(R&D)、高品質な現地製造などの事業機会の活用を支援してきました。
ベトナム医薬品市場で持続的に事業を展開するためには、特に以下の3点が重要です。
- 事前準備を重視した監査対応可能なコンプライアンス体制
- 現地産業や関係当局との信頼関係を支えるパートナーシップ
- 中長期的な成長を見据えた事業戦略
変化する規制環境を適切に理解し、早期に対応を進めることで、規制上の課題を長期的な成長機会につなげることができます。
よくある質問
1. 外国製薬企業がベトナムへ参入する際に注意すべき最大のポイントは何ですか。
弊社の経験では、法令上必要な書類を整えるだけでなく、規制当局による実務上の運用や要求事項を十分に理解することが重要です。法的要件を満たしていても、実際の手続や当局とのコミュニケーションへの理解が不足していると、事業スケジュールに影響する可能性があります。こうした点で、現地の規制実務を理解するパートナーとの連携が有効です。
2. 通達30/2025/TT-BYTへの実務対応には、どの程度の期間が必要ですか。
企業ごとの既存体制によって異なりますが、当社の経験では、必要な業務プロセスの見直し、従業員への研修、回収手続への対応、サプライチェーンの確認などを含め、実務上の対応体制を整えるまで6~12か月程度を要するケースがあります。関連する経過措置を確認するとともに、自社に必要な対応を早期に整理することが重要です。
3. 現地企業と提携すべきですか。それとも自社でコンプライアンス対応を進めるべきですか。
弊社がこれまで支援してきた案件では、現地の規制実務を理解する専門家と連携することで、コンプライアンス上のリスクを管理しやすくなるケースがあります。監査対応の不備や許認可手続上の問題が事業に与える影響を考えると、市場参入の初期段階から経験のある現地パートナーの活用を検討することが重要です。方法です。コンプライアンス上の危機、監査の失敗、許可証の却下といった事態のコストは、関与するいずれの企業にとっても、当初から経験豊富な指導を確保するための投資をはるかに上回ります。