ベトナムの医薬品産業は新たな成長局面に入っており、市場規模は2026年までに約100億米ドルに達すると予測されています。一方、医療・医薬分野への外国直接投資(FDI)は、これまでの累計で約18億米ドルにとどまっており、市場の成長性と比較すると、外国投資にはなお大きな拡大余地があります。
アストラゼネカ、サノフィ、ロシュ、ノバルティスなどのグローバル製薬企業も、決議第57-NQ/TW号や2024年改正薬事法を背景に、ベトナム市場への関心を改めて高めています。
ASEANにおけるFDIアドバイザリーを手掛けるViettonkin Consultingでは、多国籍企業の間で、従来の輸入・販売を中心とするモデルから、地域のサプライチェーンへの供給も視野に入れた現地製造拠点の構築へと移行する動きが見られます。この変化は、ベトナムの医薬品産業が長期的に発展していく上でも重要な意味を持ちます。
主なポイント
- 成長する医薬品市場: ベトナムの医薬品市場は、2026年までに約100億米ドルへの拡大が予測されています。一方、医療・医薬分野へのFDIは累計約18億米ドルと、依然として限定的です。
- 現地製造・R&Dへのシフト: 外国投資は、輸入・販売中心のモデルから、現地製造や研究開発(R&D)を重視する方向へ移行しつつあります。決議第57-NQ/TW号などの政策も、この動きを後押ししています。
- 投資環境を支える制度・コスト競争力: 2024年改正薬事法、競争力のある生産コスト、地域的な包括的経済連携協定(RCEP)を含む経済連携の枠組みなどが、外国投資家にとっての主要な検討要素となっています。
- 主要企業による投資・M&A: アストラゼネカやサノフィなどが研究開発や製造能力の強化を進める一方、フランス、日本、韓国などの企業による新規参入、提携、合併・買収(M&A)の動きも見られます。
- 高付加価値分野への展開: 今後は、バイオ医薬品、原薬を含む医薬品原料の現地化、グリーン製造、技術移転などが重要な投資テーマになると考えられます。
ベトナムにおける医薬品製造投資の現状

医療・医薬分野へのFDIは依然として限定的ですが、投資規模の拡大に向けた動きが見られます。
同分野では、約159件のFDIプロジェクト、累計約18億米ドルの登録投資が確認されており、ベトナム全体のFDIに占める割合は0.5%未満です。
こうした状況は、ベトナムの医薬品産業が単なる市場開拓の段階から、長期的かつ高付加価値な製造基盤の構築へと移行する余地が大きいことを示しています。
これまで投資は、ホーチミン市、ハノイ市、ダナン市など主要な経済拠点に集中してきました。一方、現在は、バクニン省やビンズオン省など、工業団地を有する新たな製造拠点へ投資先を分散させる動きも見られます。
外国投資家については、台湾やシンガポールなどのアジア資本が中心となっており、EUや米国の大手製薬企業による投資には、なお拡大余地があります。
こうした市場環境を支えているのが、2030年までのベトナム医薬品産業発展に関する国家戦略です。医薬品原料については、2030年までに国内の医薬品製造に必要な原料の約20%を国内生産で賄うことが目標とされており、原料供給の現地化が重要な政策課題となっています。
また、専門性の高い投資が従来の主要都市以外にも広がることで、医薬品産業の地理的・技術的な裾野も拡大しつつあります。こうした政策は、国内の医薬品供給基盤を強化し、市場変動に対する耐性を高めることにもつながります。
ベトナムへの医薬品FDIを促す主な要因
ベトナムは、規制制度の近代化とコスト競争力を併せ持つ市場として、グローバル製薬企業から注目されています。
外国投資を後押しする主な要因は以下のとおりです。
- 規制改革: 2024年改正薬事法は、規制環境の透明性向上と行政手続の改善を進める重要な制度改革です。ベトナム政府は、こうした制度整備を通じて医薬品分野への投資を促進しています。
- 政府のコミットメント:VnEconomy(2024年)が報じたように、 アストラゼネカやファイザーなどのグローバル製薬企業との対話は、国際的なサプライチェーンをベトナムに根付かせようとする政策姿勢を示しています。大規模な医薬品投資を呼び込む上では、こうした政策の継続性が重要になります。
- コスト競争力と投資優遇: 競争力のある人件費に加え、対象となるハイテクプロジェクトでは法人所得税上の優遇を検討できることから、製薬企業にとって一定のコストメリットがあります。
- 人口動態による需要拡大: 急速な高齢化と医療支出の増加により、基礎的な医薬品から処方薬まで、国内の医薬品需要が拡大しています。
- 戦略的な市場アクセス: RCEPを含む経済連携協定への参加により、ベトナムは6億人超のASEAN市場への輸出拠点としての利便性を高めています。
ベトナム医薬品市場における代表的なFDI企業

ベトナムへ早期に参入した外資系製薬企業は、単なる医薬品の製剤・販売にとどまらず、生産と研究開発パートナーシップを組み合わせるモデルを形成しています。
アストラゼネカ・ベトナムによる2020~2030年の3億1,000万米ドルの投資計画は、その代表的な例です。同社は、ベトナムにおける研究開発やバイオ医薬品の製造能力強化などに取り組んでいます。また、ホーチミン市にあるサノフィの生産拠点は、ASEAN域内でも大規模な施設の一つとして、ベトナム国内市場への供給と地域向け輸出の双方を支えています。
市場では、新規参入や戦略的な提携の動きも続いています。Nhapthuoc.com(2025年)の業界分析によると、外国企業が現地企業への出資や買収を通じて市場アクセスや流通基盤を確保しようとする中、M&Aも重要な市場参入手段の一つとなっています。
リブゾン・ファーマシューティカル・グループなども、ベトナム市場への参入を含む国際展開を進めています。
ベトナムにおける主要外資系製薬企業(2025年)
| 企業 | 出身国 | 主な分野 | 投資規模・特徴 | 状況 |
|---|---|---|---|---|
| アストラゼネカ | 英国/スウェーデン | R&D、製造能力強化 | 3億1,000万米ドルの投資計画 | 投資継続中 |
| サノフィ | フランス | 国内生産、輸出 | ASEAN域内でも大規模な生産拠点 | 稼働中 |
| Biocodex | フランス | 消化器系医薬品など | 非開示 | ベトナム法人を新設 |
| Mayoly | フランス | 消化器系医薬品 | 非開示 | 新たな代表事務所を開設 |
| Taisho Pharmaceutical | 日本 | M&A、資本参加 | 株式取得 | 現地製薬会社への出資 |
ベトナムの医薬品製造FDIを形作る新たなトレンド
次の医薬品投資の波では、単純な製剤生産から、より高度なイノベーション分野へと重点が移ると考えられます。
主なトレンドは以下のとおりです。
- 高付加価値製品へのシフト: COVID-19を通じてバイオセキュリティへの関心が高まり、バイオ医薬品やワクチンへの投資が注目されています。ハイテク医薬品や希少疾病用医薬品の研究開発も、その対象に含まれます。
- API・医薬品原料の現地化: ベトナムでは医薬品原料の輸入依存度が高く、政府は国内製造能力の強化を進めています。2030年までに、国内の医薬品製造に必要な原料の約20%を国内生産で賄うことが政策目標の一つとなっています。
- グリーン製造と技術移転: ベトナムのグリーン成長戦略の下でESGへの対応が重視される中、国際基準への適合を目指す医薬品工場にとって、環境対応や持続可能な生産体制の重要性が高まっています。同時に、医薬品開発や製造能力の現地化に向けた技術移転型の提携も進んでいます。
- R&Dエコシステムの拡大: 大学や専門人材との連携を通じて、研究開発や国内での臨床試験を支える人材基盤の形成が進みつつあります。こうした動きは、ベトナム医薬品産業の研究開発基盤強化につながります。
課題と2030年に向けた戦略的展望
ベトナム医薬品産業の潜在力を最大限に引き出すには、制度面と事業環境の双方で継続的な改善が必要です。
外国投資家にとっては、規制遵守への対応や、臨床試験に関する複雑な手続などが引き続き課題となります。
また、サプライチェーン面では、特にコールドチェーン保管や医薬品流通などのインフラ・物流体制が、事業運営を複雑にする要因となる場合があります。
一方、2030年に向けた政府の政策では、こうした課題への対応とリスク低減が重視されています。
投資家にとって重要なのは、市場環境を現実的に評価した上で、適切な参入戦略を策定することです。
Viettonkinにおけるアドバイザリーの経験からも、適切な市場参入モデルを選択し、現地ネットワークを活用して、ベトナムおよびASEANにおける複雑な許認可・規制環境へ対応することが重要となります。
これは、医薬品製造事業を長期的に成功させる上でも重要なポイントです。
よくある質問
ベトナムへ進出する外国製薬企業が直面する主な課題は何ですか。
主な課題として、複雑な規制・承認手続への対応、信頼性の高いコールドチェーン物流網の確保、輸入原材料への高い依存などが挙げられます。
当社がこれまで携わってきた3,000件以上のプロジェクトの経験からも、現地の販売代理店や医療機関との強固な関係を構築することは、こうした課題に対応する上で有効な戦略の一つです。
ベトナムで新規医薬品の販売承認を取得するには、どの程度の期間が必要ですか。
新規医薬品の登録に要する期間は、ジェネリック医薬品か新有効成分を含む医薬品かといった製品の種類や、GMP要件への適合状況などによって異なります。
また、投資登録証明書(IRC)の取得は、医薬品の製品登録とは別の投資手続として検討する必要があります。
製品登録や必要な投資手続を含む市場参入全体では、案件によって12~24か月程度を見込む場合があります。当社では、フォーチュン・グローバル500企業の案件について、24か月程度の準備期間を想定するよう提案するケースもあります。
新工場の建設とベトナム企業の買収では、どちらを優先すべきでしょうか。
新たに完全所有の工場を建設する場合、品質や知的財産を自社で管理しやすい一方、より長い準備期間と大きな初期投資が必要になります。
現地企業を買収する場合は、市場への迅速なアクセスや既存の流通ネットワークを活用できる可能性がありますが、十分なデューデリジェンスが不可欠です。
最適な選択肢は、ASEAN市場における製薬事業の長期的な戦略目標によって異なります。デリジェンスが求められます。製薬事業にとって最適な選択は、ASEAN地域における長期的な戦略目標によって大きく左右されます。